彩都山口

彩都山口 vol.6

「この川がいい」という人々の願いが、ゲンジボタルを守りました。

写真左:大殿小学校の児童たちによるホタルの放流。子どもたちは、この他にも餌のカワニナ取りや飼育観察に年間を通して参加。現在では、親子二代にわたって関わってきたという家族も増えている。やがては三代目へと受け継がれていくことだろう。
写真右:5月下旬〜6月上旬に開催される「ほたる観賞Week!」の頃には、光を放ちながら飛ぶゲンジボタルの群れが、一の坂川を幻想的な世界に変える。

市街地に、国の天然記念物ゲンジボタルが乱舞する

 初夏の夕刻、一の坂川は、ホタルの光に包まれます。5月半ば、ふーっと微かな光を放ってわずか数匹の初蛍が飛ぶと、いよいよシーズンがスタート。その数は日々少しずつ増えてゆき、5月末の「ほたる観賞Week!」の頃、川は多くのホタルたちが飛びかう幻想的な空間へと様替わりします。山口市の中心市街地の家々が立ち並ぶ一帯で、国の天然記念物ゲンジボタル(※注1)の乱舞が見られるなんて…これは、一つの奇跡です。そして、奇跡の裏には必ず物語が隠されているのです。

 ホタルの生育に不可欠なきれいな水や餌・環境整備は、今や、積極的な取り組みなしには保てないもの。ここ一の坂川は、昭和40年代の河川改修の際「ホタルの飛ぶ、この川がいい」という地元の声を反映させ、全国初のホタル護岸工事を行いました。それはホタルの生育環境に配慮して選ばれた工法でした。

 地元の人々は平成3年には“大殿ホタルを守る会”を結成し、環境整備に努めています。川の掃除やホタルのエサ取りには、毎年延べ千人以上の人々が汗を流すとか。そして、この会の中核を担っているのが大殿小学校の児童たちです。ホタルのエサとなるカワニナ取りには学年ごとに全校生徒が参加し、産卵・孵化の観察にも力を入れています。活動拠点は、川沿いに立つ山口ふるさと伝承総合センター。かつて酒場の土蔵だった保護飼育場はうす暗く保たれ、「ゲンジボタルの卵の発光を見る会」などの貴重な機会も設けられています。

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地元住民による一の坂川の一斉清掃。まずは川沿いのクリエイティブ・スペース赤れんがにて作業の打ち合わせを行い、川底から植え込みまで徹底的にきれいにする。一日の清掃が終わると、こんなにゴミが…。

ホタルを愛でる心は、中世から受け継がれ

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ゲンジボタルの卵の発光。非常に微かな光のため、しばらく目を凝らしていないと見えない。この写真は長時間露出により撮影。

 卵の発光…といえば「29代大内政弘の『拾塵和歌集』には澗底蛍の歌があり、大内氏の時代には、月の光も届かない谷川の水底でも光るほど多くの孵化したばかりの蛍の幼虫が生息していた…とも読み取れます」と、大殿ホタルを守る会事務局長の岡田勝栄さん。ホタルを愛でる心は、はるか中世の頃からここ山口に息づいていたに違いありません。

 平成27年には、天然記念物指定80周年を迎える山口ゲンジボタル発生地。人々の愛に支えられて飛ぶホタルは、ひときわ優しく、温かい光を放っているようです。

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    ①ミズゴケに産卵中のホタル。
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    ②バットの中にミズゴケを入れ、水分補給しながら卵の孵化を待つ。産卵から25日くらいで孵化し始める。
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    ③ミズゴケに産みつけられたホタルの卵。大きさは直径0.5mmほど、明太子の小さな粒くらい。
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    ④孵化したばかりの幼虫。体長2mmほど。この時期だけは顔が白く、黒い目がくっきりしている。

 

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大殿小学校の児童たちが、昭和62年(1987)からホタルの飼育・放流の場としていた旧野村酒場の土蔵跡地に、平成3年に山口ふるさと伝承総合センターが開設され、活動拠点になっている。

 

(※注1)「山口ゲンジボタル発生地」として昭和10年(1935)に国の天然記念物に指定。

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